血友病における心理支援
私が血友病の患者さんに出会ったのは、担当医から「何か伝えたいことがあるみたいだけれど、聞き出せていない気がする。一度、ゆっくりと話を聞いてもらえないだろうか」と依頼を受けたことがきっかけでした。「患者さんに会うからには、きちんと疾患について理解していてほしい」とも言われ、研修会などで多くのことを学ばせていただきました。その後、患者さんにお会いし始めたのですが、最初の頃は〈あまりご自分のことを話したがられないな…〉といった印象を持ちました。それにはいくつかの理由がありましたが、一番印象に残っているのは「母親に心配をかけてしまうから」といった内容でした。「“痛い”“つらい”“なんで自分だけこんな病気に”と思うことはあるけれど、口に出してしまうと母親を悲しませてしまう。あんなに頑張ってくれている母親に心配をかけたくなかった。悲しむ母親の姿を見たくなかった」と話されました。痛みがあってもよほどのことがないかぎり言い出されませんし、通院のつらさや愚痴や何もかもぐっと抑えておられました。痛みのある生活が普通になっていることを知り、また、母親や家族のためとはいえ、あまりにも心に負担をかけた状況であることを知って、心理・精神的な支援が不足している状況だと認識しました。心理職は話を聴く役割を担っています。話を聴かせていただくことで患者さんの心の支援に努め、同時に、他職種に伝わる言葉で患者さんの心境や置かれている環境を共有し、理解へと繋げていくことだと考えています。
愛媛大学医学部附属病院
当院での連携についてご紹介します。日本の地方では血友病センターが確立していないため、包括医療を実施することが難しいといわれています。当院も同様の状況でしたが、担当医だけでは患者さんやご家族の精神面を支えることには限界があると感じていたため、2013年から内科に臨床心理士を導入しました。対象は当院の内科外来に通院中の血友病患者さん全員で、家族歴や成育歴、血友病のこと、現在気になっていることなどを中心に、順次面接を行いました。青年期までの主な問題は「自己注射導入の不安と移行期の問題」、成人期以降では「関節症、肝炎、保因者(娘)」の問題があげられ、各成長段階に応じての支援が必要であると再認識させられました。そんな中、当院では2016年から愛媛県血友病包括外来を開始しました。年に1回、内科/小児科(看護師・臨床心理士による面談含む)、歯科、整形外科、リハビリテーション部を受診するという取り組みです。将来の小児科から内科への移行を考慮して、当院では小児科の患者さんであっても内科も受診してもらい、内科外来の環境やスタッフに慣れてもらえるよう枠組みを設定し、患者さんとご家族の精神的負担や心配事を軽減できるよう工夫しています。
これから
包括医療に参加することで、私は小児科の患者さんとご家族にお会いすることができるようになりました。関節障害で日常生活に困っている成人の患者さんに出会っていた私は、元気に走り回っている小児の患者さんに驚いてしまいました。製剤の進歩を感じ、未来は明るいものかと勝手に想像してしまったほどです。ですが、すぐにこの考えが浅はかだったことを知ります。お母さんたちと話をする中で、母親の支援が非常に重要であることを強く意識しました。内科で出会う成人の患者さんも一人で悩みを抱えていましたが、小児科で出会ったお母さんたちもまた、一人で悩みを抱えて孤立していました。製剤が飛躍的に良くなっているのと比例するように、患者さんやご家族の心理・精神面も健やかになれるような支援を提供できる一員でありたいと思っています。
(2019年Vol.60春号)
審J2005103