保因者健診を受けてみませんか
血友病治療は凝固因子製剤の開発・改良、定期補充療法の導入などにより目覚ましく進歩しました。現在は、適切な治療をすれば、健常者と変わらない生活が送れるようになりました。その一方で、血友病の保因者をめぐる様々な課題は、ほとんど手付かずのままです。血友病医療に携わる医療従事者が保因者の女性と接点をもつことは容易です。しかし、「患者さんの家族」としてのサポートはしていても、保因者自身の心と身体の問題については見過ごしがちでした。なぜなら、彼女たちの多くは出血傾向があまりないか、あっても血友病と結びつけることが少なかったからです。さらに医療従事者から、血友病保因者として直接、話を持ちかけられることも少なかったと思います。このため、保因者が直面している困難が、「病気」であるという認識が保因者自身や医療者にも少なく、「一部の保因者に対しては治療が必要」という考えが、これまで、あまりなかったと思います。
血友病保因者は、血液凝固因子活性値が一般の女性より低めのことが多いため、出血傾向や異常出血を経験した人が少なくないことが分かっています。一般に血液凝固因子活性値は個人差が大きく、健常者でも50~150%と幅があります。ほとんどの保因者は、日常生活には支障はありません。しかし、保因者の5人に1人は軽症血友病とほぼ変わらない40%以下の凝固因子活性となり、時には重症レベルの活性しかない方もいます。皮下出血、鼻出血、月経過多など、様々な出血傾向がみられます。また外傷事故に遭ったときや大きな手術を受けるとき、そして出産の際には血液凝固因子製剤の投与が必要になる場合があります。
当院でも数年前、血友病A重症患者の娘さんが、膝関節内出血で時間外外来を受診し、女性血友病A軽症と診断されています。ぶつけた覚えもないのに皮下出血痕がある、月経過多である、出産時に出血が多かった、鼻出血しやすい、なかなか鼻出血が止まらない、抜歯したら血がだらだらと出続ける、等の問題が起こる可能性があります。思い当たることがあったら是非、保因者健診を受けましょう。また出血症状がない保因者の方でも、凝固因子活性測定をすると、意外と低い活性の方もいます。出血傾向が明らかでない保因者女性も、普段から自分の凝固状態を、調べておいて頂きたいと思います。
このように保因者自身が「保因者の困難さ」についてよく知り、自身のQOLを高める努力をすることはもちろん大切です。さらに医療者も保因者の現状を理解し、医療者側から手を差し伸べ、適切な医療サポートを提供することは、更に重要であると思います。
(2019年Vol.62秋号)
審J1909128