生活課題に焦点!!
少し昔の話です。
わたしが荻窪病院に就職したころの話です。
前任者から、『感染症を持った「血友病」の方を多く診ている病院で、私がやり残した事をやってほしい』と言われたのを思い出します。それまでのわたしの職務は、精神科での支援や路上生活者などの経済的困窮者をメインに保健医療機関の中で支援をしていましたから、「血友病」?どんな病気?聞いた事はあるけど、何が何だか解らない状態でのまま就職いたしました。その頃の「血友病」治療は、ようやく定期補充療法が始まるか始まらないかという時で、出血で入院に至る患者さんも多く、外来待合も今と比べると、車いすや杖を使用している患者さんが多かったように思います。
前任者の方は、「血友病」の歴史の中で大きな位置を占める、感染症の裁判や和解などに努力・奔走された方でしたので、その後任のわたしは、何をすれば良いのか?思案し、妙な不安を抱いたのを思い出します。そんな不安もすぐに払拭されました。大きな障壁は超えたけど、当時はまだまだ血友病の世界に『5つの巨人』※が大手を振ってのさばってましたから。ちょっと外来に呼ばれれば、待合にいる患者さんに自然に目がいきますよね、杖や車いすを使っている患者さんがいるわけです。この人は障がい者手帳は持ってるんだろうか?何級なんだろうか?何の仕事をしてるの?と患者さんを見るたびに気になるんです。ある意味、「病院」でのSocialWorkというより、「障がい」を対象のSocialWorkの趣きでした。また、遠方から患児をおんぶして、受診すると、帰りにはたくさんの製剤を持って帰る親御さんの姿もよく目にしました。
そのような中で感じたのは、まだまだ使えるシステムと上手く接触できていない事が多いのではないか?と。
まさに、『5つの巨人』の中の疾病・無知・貧困が存在しているのでした。
さて、定期補充療法が浸透し、従来製剤から半減期延長製剤そして凝固因子代替製剤へと目覚ましい薬の進歩・開発がおこなわれ遺伝子治療が話題にあがる昨今、まさに、テーラー(カスタム)メイドの医療が確立しようとしています。待合にいる患者さんの様相もだいぶ変わって来ました。若い患者さんなんかは、目立つ関節症すらなく、松葉杖や車いすの患者さんの数も少なくなったように見受けられますし、エベレスト登頂に成功した方や、甲子園に出場した方などの話も聞かれるようになりましたし、当院でも柔道やアメリカンフットボールをしている患者さんも現れています。
ここで、みなさんに質問です。
ソーシャルワーカーと係った事が有りますか?係ってますか?
わたし達ソーシャルワーカーの力不足なのでしょうが、恐らく皆さん方はソーシャルワーカーを制度の専門家と思っておられる方々が大半ではないでしょうか。医療費の給付制度や手当・年金の専門家だと思っていませんか?ある一面では間違いでは無いのですが、わたし達ソーシャルワーカーの仕事は、人と人・人と社会・社会と社会の間に働きかけて、より生活しやすい状態になることに重きを置いています。超高齢社会になり、治療の進歩により血友病患者さんの寿命・余命も平均にほぼ同等に近づきつつあります。寿命・余命が延びたということは、それだけ、皆さんのニーズも増えたということです。また、希少疾患ゆえの格差も存在しますし、遺伝疾患という側面からくる問題も否めません。皆さん方がソーシャルワーカーと係ることで自ら自己実現されることを期待いたします。
※イギリスの経済学者、ベヴァリッジ(Beveridge,W.H.1897~1963年)がイギリス政府に提出した「社会保険および関連するサービス」と題した報告書のなかで示した貧困に関する原因として挙げた<貧困、疾病、不潔、無知、怠惰>の五つのこと。
(2019年Vol.63冬号)
審J1912176