風の音~輝く星たち~

血友病と自分

自分にとって血友病とは何だろう――物心がついてもしばらく考えつかず、大学生・研修医になってようやく自覚するようになった思いである。

私は小学1年生の時に歯が抜けた時の出血が止まらず、病院受診して初めて血友病患者であることを知らされた。血友病Aの中等症である。小学生の時分では疾患の重大さを理解しておらず、病院受診のために学校を早退したり関節内出血により体育の授業を休んだりと健常な子と比べて自由が少なくてもあまり気にしていなかったように思う。中学生・高校生になっても同じだ。週3回、登校前に因子製剤を自分で投与するのは確かに負担であったし面倒なものではあったが、疾患を重くとらえることはしていなかった。

医学部への入学のきっかけは親からの勧めだった。疾患を持っていても理解してくれる人が周りに多いほうが良いだろうという親心のようである。患者としての経験を臨床や研究の場でできる限り活かしたいという私自身の思いがなかったわけではないが、先に語ったように疾患への認識が軽いからには、あまり大きな動機とは言えない。あまり自信を持てる動機ではないものの浪人生活を経て何とか医学部へ入学し、ようやく医学に触れ、将来血友病患者の治療をしようという考えを持つようになったがそれでも未だに疾患に対する認識は軽かった。

大学生活をしばらく過ごし、ようやく患者会活動に参加するようになり他の血友病患者と触れ合うことも多くなり、そこで改めて血友病患者の多様性に目を向けるようになる。重症患者であり出血イベントを繰り返して日々の生活で苦労されている方、血友病患者全体の将来を案じて積極的に活動されている方、自分とは考え方が違う数々の人々…。以前も患者会に参加し他の患者と話す機会はあったが、その頃とは意識が変わったように思う。自分が社会性を持って人と触れ合ったり、頑張って生きていくきっかけになったのである。

それと同時に今まで自分はもっと血友病について触れることができたのではないか、自分に声をかけてくれる人もいる、それなのになぜまともな活動をしてこなかったのかと後悔することも増えた。

ようやく血友病というものに意識を持てるようになり、患者会やフォーラムといった活動にも精を出せるようになったが、出鼻をくじかれることになる。COVID-19である。2020年初頭に本格的に蔓延し始め、予定されていたフォーラムがWeb上での開催となったり患者会の活動が実質停止状態になったりと、患者同士で意見交換を行ったり交流を行える場が大きく少なくなってしまったのである。それだけではない。COVID-19が凝固因子欠損疾患に対してどのような影響を与えるかが現状未知数であり、それについて各医療者や患者がどう考えているかもなかなか伺いにくい状況なのである。

外的要因によって他者との触れ合いが難しくなったこの状況だからこそ他の患者と何とかして接触し、疾患に対してどう考えているか・どう生活しているか・今何に不安を持っているかといったことを共有すべきなのだと思う。COVID-19やそのワクチンについてもそうだ。接種することによるメリット・デメリットのバランスがはっきりしておらず医療従事者からのはっきりとした回答が難しい現状では不安を抱える患者も多いだろう。そういったことも相談できる相手として患者会メンバーの存在が大切なのではないだろうか。

私自身にとって面倒な負担でしかなかった血友病が、今は他者と触れるきっかけとなった。今後研修医を終え、専攻医・専門医となった時に血友病が自分にとってどのようなものになるか、上手く付き合っていきたいと思う。

(2022年Vol.71夏号)
審J2207388

吉本 知史 奈良県総合医療センター臨床研修医
血友病患者会「万葉友の会」所属