どんな治療?
血友病の治療はどのようなものですか?
血友病Aでは第Ⅷ因子を、血友病Bでは第Ⅸ因子を濃縮した血液凝固因子製剤を使用します。主な治療方法には、家庭療法、補充療法があります。
血友病A:第Ⅷ因子の輸注量(単位)は、目標ピーク値(%)×体重(kg)÷2
血友病B:第Ⅷ因子の輸注量(単位)は、目標ピーク値(%)×体重(kg)÷X※
※血漿由来製剤の場合は約1、遺伝子組換え第Ⅸ因子製剤の場合は1~0.7となりますが、特に第Ⅸ因子の場合は上昇率の個人差が大きいため、輸注試験をして確認する必要があります。
1回の輸注で良好な止血が得られず、追加輸注が必要な場合、血友病Aなら12~24時間後です。血友病Bは、半減期延長型製剤でない(標準型)場合24時間後ですが、半減期延長製剤の場合は48時間後とされています。前述の式によって計算される輸注量はあくまで目安であり、個々の患者で血中因子活性をモニターしながら調整することが望ましいです。
家庭療法(自己注射)とは、どのようなものですか?
家庭療法とは、家庭で血友病患者さんの家族や患者さん自身が、血液凝固因子製剤を注射することです。家庭療法は、緊急性を要する出血の場合に生命を救うことや、出血による痛み、関節の動く範囲や動き自体の障害を早く治療ができます。また、筋肉が弱くなったり、血友病性関節症(出血をくり返した時は、どのようになりますか?「図5」参照)といった出血後の後遺症の予防につながります。家庭療法を行うには、医師や看護師などから、①病気についての知識、②静脈注射のやり方、知識、製剤の保管や取扱い方法などの指導を受け、それを十分に習得する必要があります。
補充療法とは、どのようなものですか?
補充療法とは、出血後に出来るだけ早期に適切な量の血液凝固因子製剤を注射することです。
補充療法には、主に定期補充療法、予備的補充療法、出血時補充療法に分かれています。
- 定期補充療法
- 現在、中心となりつつある治療法です。出血やイベントの有無にかかわらず、週に何回か定期的に輸注するやり方です。
- 予備的補充療法
- 運動会や遠足といった足に負担がかかる行事予定がある場合など、出血がなくても、当日の朝などに事前に注射をするやり方です。
- 出血時補充療法
- 出血したあとに、完全に止血が確認されるまで、凝固因子製剤を注射する、最も一般的に行われてきたやり方です。
インヒビターとは、
どのようなものですか?
インヒビターとは、患者さんのからだのなかで産生される、血液凝固因子製剤のはたらきを阻害する物質である抗体(1)のことです。血友病の治療では、血友病Aの患者さんには第Ⅷ因子の凝固因子製剤、血友病Bの患者さんには第Ⅸ因子の凝固因子製剤をそれぞれ投与します。しかし、凝固因子製剤の投与を続けるうちに、からだの免疫系が投与された凝固因子製剤を異物として認識し、これらを排除しようとして反応する抗体(インヒビター:阻害物質)が産生される例が血友病Aでは20~30%、血友病Bでは3~5%の割合でみられます。
- 1抗体:
- 体外から異物(抗原)の侵入を受けた生体が、その抗原にだけ結合して、生体を防御するために作り出したタンパク質です。
第Ⅷまたは第Ⅸ因子の凝固因子製剤を複数回注射したとき、患者さんが持っていない第Ⅷ因子または第Ⅸ因子を異物と認識し、インヒビターが作られます。インヒビターが産生されるようになると、製剤として注射された第Ⅷ因子または第Ⅸ因子は、インヒビターの結合によって働けなくなります。
- 2ヘルパーT細胞:
- 体外からの異物(抗原)を見つけ出し、B細胞に刺激を与え異物を捕まえるように命令する細胞です。
- 3B細胞:
- ヘルパーT細胞から刺激を受け、異物(抗原)を捕まえる役割を担います。
- 4抗体産生細胞:
- B細胞と侵入してきた異物(抗原)がくっつくと、B細胞は抗体産生細胞となって、インヒビター(阻止抗体)を大量に作りだし、異物を捕まえます。
- 監修:
- 藤井 輝久先生
広島大学病院 輸血部 准教授