Q
中年を過ぎて、仕事を辞めるときのことも考えるようになりました。転職も含めて、辞める時にも何か注意した方が良いのでしょうか。
A
「昔は20歳まで生きられない」と言われた血友病。今は治療と薬の進歩で定年を迎えることも当たり前になってきました。こうした現状を受けて、辞めるにあたっての相談も増えています。今回は辞めるときに注意したいことのお話です。
定年の話をする前に体調不良で仕事を休職する場合からはじめましょう。傷病手当金ってご存知ですか。病気や怪我で休職している間、基準給与の2/3を保障してくれる制度です。もらうためには条件があります。「治療を受けていて、そのために仕事を続けることができず、3日以上連続で休んでいて、無給与か基準給与の2/3未満しかもらっていない」人が対象になります。会社と医師からの書類を準備して申請すれば、4日目から最大1年半の間に休んだ日数分支給されるという制度で、国民健康保険以外の人に適用されます。ありがたくない事態ですが、万一、そのようなことに陥ったら、かかりつけの病院のMSW(医療ソーシャル・ワーカー)に傷病手当金について相談してみてください。他にも雇用保険(失業保険)や障害年金など、生活を支援してくれる制度もありますので、相談してみてください。
さて定年退職です。60〜64歳の年齢は生まれ年によって、年金がすぐには支給されないことがあります。老後についての冊子では何をみてもマネープランが重要と真っ先に書かれています。血友病患者さんの場合は同じくらいに気をつけてほしいことがあります。それは健康保険です。たとえば、60歳で定年を迎えたが、パートとして再雇用され、引き続き働くことになった…としても健康保険が国民健康保険に移行するのか、同じように会社の健康保険組合に加入していられるのか。もし替わるようであれば、特定疾病療養受給者証や先天性血液凝固因子障害等治療研究事業の変更が必要です。失効しているのを失念して、製剤を処方してもらうと数百万円の請求が来ることもあり得ます。もちろん、仕事から完全に離れる場合も同じです。くれぐれも医療券変更の手続きをお忘れなきように。
皆様は退職したら何をしますか。好きなことをして過ごしたいと考えていますよね。でもこんな話があります。釣り好きな方が早々に退職し、海辺に居を構えて、釣り三昧。さぞや満足な隠居生活を送っているのだろうと、皆思っていたら、しばらくすると会社に戻ってきました。どうしてかと、尋ねられたその人は「俺は漁師ではなかった」と答えた。好きなことだけ毎日やって過ごそうとしても、それだけで暮らすのは難しいようです。
一般的に女性は男性に比較して、対人関係を築く能力に優れ、地元にいる時間も長く、子育てなどしていれば、それこそ友人も多くいると思われます。しかし、通勤して仕事をしていた男性はそうは行きません。退職後、ポツンと一人、家に取り残されることがないように準備が必要です。家族がいなくても家事はできますか?体が動き、頭がはっきりしている限りは、働いたほうが心身によいです。もっとも手軽な労働は家事です。家族からも感謝されることでしょう。台所に入ったことがないなら、料理学校に行くのもよいでしょう。勉強と人付き合いの機会、そして、予定のある緊張感がまとめて得られてよいかもしれません。
人と一緒にやるような趣味やスポーツはありますか?これからは成年の方もきちんと定期補充療法をして、少なくとも今の関節状態を悪化させない努力が必要です。きっと高齢になってもスポーツが楽しみと言える人が増えてくるでしょう。
治療に関して、いつまでも自力で静脈注射が続けられるでしょうか。皮下注射の製剤に期待するのもひとつの考え方ですが、視力低下など、何が起きるかわかりません。元気なうちから、地元の訪問看護などのサービスを検討しておくことはいかがでしょう。血友病は扱いが難しい病気ではありませんが、実態が知られていない病気でもあります。何かがあってから慌てて依頼しようとしても存外に時間がかかります。
普段から、いろいろ考え、備えておきましょう。