Q
先輩方はどのように仕事を選び、どのような仕事をされているのでしょうか。
A
職業選択についての質問ですね。最も大切なのは病気を意識することではありません。自分が何をしたいか、自分がどういった領域でのキャリアを積んでいくかを考えてください。公務員が身分保障の点で有利なのは否定しませんが、仕事が楽だと思ったら大きな間違いです。現場であれば土日出勤は当たり前、本庁であっても議会対策などで深夜まで勤務することも当たり前です。国家公務員ともなれば転勤も全国レベルになることは覚悟してください。身分保障がある分、病名などの個人情報保護意識に薄弱さが認められる場合すらあります。最初に考えることは自分がこの職種が好きか、ことによっては一生やることになっても悔いはないかという点です。実際、転職はしても同系統の職種に就くことは極めて多いもの。好きかどうかはとても大切な要因です。
具体的に自動車好きだったとしましょう。まず自分の勉強してきた中身を考えます。機械工学だけなく、化学を学んでいれば、燃料、添加剤、塗料や触媒開発の領域で自動車会社に就職できるかもしれません。自動車販売、ガソリンスタンド店員や運転業務もあります。専攻と希望職種の折り合いを考えて職種の希望を考えます。それから自分の症状を考慮してください。症状と言っても重症度だけで決めろと言っているのではありません。中等症であっても重たい工ンジンを載せかえる整備工の仕事をしている人もいます。一概には言えません。仲間はあらゆる仕事についています。医師、弁護士もいれば営業、運輸や建築現場で身体を目いっぱい使って働いている方もいます。必ずや希望の系統の職場でできることが見つかります。あきらめないでください。
そこでアルバイトの勧めです。学生でも就職浪人中でも可能であれば、アルバイトをしてください。アルバイトをすれば、自分の適性に気付くことがありますし、自分がどの程度の労働まで耐えられるか、見当をつけることができます。また履歴書を書く時にも、無職で過ごすよりは多少の職歴、職業経験にもなるかもしれません。幸運にも、アルバイトから正社員になれる場合もありますし、逆にアルバイトなら辞めることも難しくはありません。 そうした体験を加味して仕事を考えるわけですが、保護者の方に人気があるのは、医療系の仕事と公務員です。公務員については先ほど述べましたが、医療系も意外に身体への負担が大きく、医師にしても、看護師にしても血友病患者さんにとっては大変な業務となります。大工さんや植木屋さんなどの仕事をしている方もいますが、やはり膝や足首の関節状態は比較的良い方が多いようです。ただ調理師、旋盤工、理容師等では、膝や足首だけでなく、肘の状態も大切なポイントになってきますし、忘れてはならないのはこうした仕事に荷物の搬入が付き物だということです。本務よりはこうした作業で出血する人は意外に多いのです。たしかに「出血には痛い時のコツがあるから何とかなります」と皆さんおっしゃるものの、やはり慣れるまでは工夫と時間が必要です。なお、これらの話は個人によって状況が全く違うので、あくまでも一般論でしかないことをご承知おきください。
Q
いよいよ就職活動を開始します。
何を聞いていいか、わかりませんが、コツや注意点があれば教えてください。
A
入園、入学に際してはほとんど知らせているとお話ししましたが、就職ともなれば、話は別で、病名を言って受験するかどうかに迷うことでしょう。以前の調査では2割弱の人が職場に伝え、今は時期を別にして2/3程度の人が職場に伝えていました。就職氷河期と呼ばれたころは日本企業の入社試験で病名を伝えた場合、外資系に比べて不採用になる危険性が高かったのですが、半面、日本企業は正社員として数年間働き続ければ少々のことがあっても雇用し続けてくれた印象があります。もし貴方が信念として病気を理解してくれない会社で働きたくないのであれば、それも立派な選択です。しかし、採用されることが優先と思っているなら言わないで就職し、元気に働けることを同僚、上司に見てもらってから告白するのも戦術でしょう。
いくつか留意点について述べます。まず入社前の健康診断について、学校に伝えている場合は学校として知った情報を隠して健康診断書を発行することはできません。つまり病気を隠して入社試験を受けられないかもしれないということです。その時は近隣の保健所や病院で別途に健康診断書を書いてもらってください。知る限りにおいて血液の凝固検査まで健康診断書で要求されることはありませんし、入社直後の健康診断でも同様です。
関連して健保組合や会社に病気が知られるのかという質問も多く受けますので、わかる範囲で書きますと、原則、健保組合には知られますが、会社には知られない「ことになっています」。二つは別組織で病名などの個人情報が行き来することはないのですが、大会社は自前の健保組合を持っていて、そこではたとえば、総務との人事交流もあるようですし、疾病のために一時的な業務軽減が必要であれば産業医などを通して情報が流れることもないとは言えません。対象となる会社の健保組合を調べましょう。今はインターネットの会社案内で厚生関連のページをみれば、比較的簡単に知ることができます。同業種の複数社加入の健保組合、政府管掌の健保、国民健保であれば、会社と健保組合との人事交流もほとんどなく、病名漏えいのリスクはあまり気にしなくてもよいです。もちろん、それらであれば入社試験で病名告白しても大丈夫という保証ではありませんし、大企業の健保組合からは情報が漏れると言っているのではありません。
次に製剤の準備です。就職すれば、親元の健康保険組合や国民健康保険から、自分の健康保険に加入し、そこで特定疾病療養費の申請をしますが、これは本来、加入者と保険組合のやり取りで済む手続きです。しかし組合に申請したところ、会社の総務を通してほしいと組合から言われた事例もありました。これでは会社に病名が漏えいしてしまいます。居直って会社を訴える手もありますが、自分が勤める会社であれば波風を立てたくないのも人情です。また「かかった医療費ー1万円」を健保組合が負担しますが、最初から高額な医療費でワル目立ちしたくないのも人情です。そこで、とりあえず仮採用期間(公務員半年、企業2〜3ヵ月程度がほとんど)に製剤を病院でもらわなくてすむように、そして就職や転職の直後には一時的に出血量が増しやすいので、ちょっと多めに備蓄します。レセプ卜は会社や役所には渡りませんが、かかった医療費を個人に伝えるシステムは様々なので、それを一応用心する意味もあります。急には3ヵ月分もの製剤を余分に処方することはできません。出血の頻度にもよりますが、4月就職であれば、やはり12月までには相談して、毎月少しずつ多めに製剤を処方してもらい、ストックしてください。
病院での受診や検査程度は大した額にはならないので目立ちませんが、凝固因子製剤を使うと何十万円単位で医療費がかかるのはご存知の通りです。特定疾病療養費の申請は本採用が確定した後に直接、健康保険組合にします。その上で同僚や上司が信頼に足ると分かれば告白してはいかがでしょう。
なお、万一入院することになった時は事情を知らない同僚がお見舞いに来ることも想定して、医師や病棟スタッフと病名を何と伝えるか、ベッドサイドの表示をどうするかなど、プライバシー保護について話し合っておきます。
経験的な話ですが、1年間無事に精勤できれば、出血して休んでも周囲は不審には思いませんし、3年間、普通に勤めることができれば、信用できる人に病名を語っても受け入れてもらえるケースが多いようです。うまく隠して就職することが良いのではありません。理想は病気を隠さず、しかも周囲が正しく理解して社会参加が果たせることです。そうした良い会社ばかりの安全な社会ができるといいですね。
最後に血友病というだけでは身体障害者手帳の交付を受けることはできませんが、関節状態が悪いなどの理由で、障害者手帳を持っている人もおられるでしょう。その場合は、企業の障害者枠で就業する方法があります。一定規模以上の企業は定率の障害者を雇用するよう法律に定められています。これを利用して入社した場合、通院・入院の利便は図ってもらえ、身体への負担も配慮してもらえます。ただ、全般に昇給・昇格・配置替え希望という点で、限定されやすいのは現実として知っておいてください。