筋力トレーニング(筋トレ)をすると、単に筋力が向上するだけではなく、感覚神経と運動神経の交通が良くなって運動で怪我をしにくくなり、また成長ホルモンの分泌が促されて関節の周囲の皮下組織の強度や骨密度がアップして出血もしにくくなります。筋トレをするとしばしば筋肉痛を生じ「筋トレをすると筋肉が損傷して筋肉内出血を起こすのではないか」と心配される方がいます。しかし、筋肉痛の原因は出血ではなく、筋トレ中に生じた乳酸などの疲労物質の蓄積によって起こるもの(現発性筋肉痛)と、運動の後1~2日経ってから筋線維や筋膜の微細な損傷の修復時に出る炎症物質により引き起こされるもの(遅発性筋肉痛)の二つです。
現発性筋肉痛は休憩して疲労が回復するにつれて治りますが、遅発性筋肉痛は2~3日かかります。治癒すると筋トレ前よりも筋線維が太くなり筋力がアップします(超回復)。筋トレで生じる出血の多くは、準備運動不足で瞬発運動をして肉離れを起こして生じる筋肉内出血や、トレーニング器具の硬い部分が強く当たって生じる皮下出血などです。これらの出血は、十分な準備運動と安全な方法でトレーニングを行うことで予防ができます。
筋力をアップさせるには鍛えたい筋の最大筋力(ぎりぎり一回できる負荷)の60%程度(筋力維持には4 0%程度)の負荷で5~6秒の等尺運動(または関節可動範囲をフルに動かす等張運動)を10回、2~3日に1度の頻度で行えばOKです。筋肉を使わないでいると筋タンパク質が少しずつ分解され1日1~2%も筋力がダウンしていく一方、筋力をアップさせるのには倍以上の期間を要すると言われています。丈夫な関節を維持する為に筋トレを少しずつ継続して行っていきましょう。
筋トレの方法は様々ですが、血友病性関節症のメンテナンスを目的とした筋トレでは関節や筋肉の負担をできるだけ徐々にアップさせていくことが大切で、下図①~⑤の順で行います。
※関節内出血や筋肉内出血後、関節の変形が進んでいる場合は、再発や症状悪化の恐れがありますので、筋トレを開始する前に必ず主治医にご相談ください
筋トレ前の準備運動・筋トレ後の整理運動として必ず行うようにしてください。
関節を動かさないで筋肉を収縮させる運動です。ボールを潰すような運動です。関節の曲げ伸ばしをすると痛みが出る場合は等尺運動のみで行います。
関節運動の初めから終わりまで一定の負荷がかかるような運動です。スクワット運動や鉄アレイを垂直方向に上げ下げするような運動です。関節を動かしても痛みが出なくなったら等張運動を追加します。
バネを使った動きを伴う「筋力×スピード」の運動です。縄跳びや反復横跳びのような運動です。スポーツを行う場合には怪我の予防と技術の上達の為に必要なトレーニングです。瞬発運動は運動の開始時だけでなく運動の制動時も関節や筋肉に高い負荷がかかりますので、運動負荷の調節を慎重に行ってください。