前回に続き、血友病の患者さんからも多く訴えのある「肩こり」についてのお話です。今回は肩こりの運動療法のうち、姿勢の練習とストレッチ体操のお話をしていきたいと思います。頸(くび)・肩の筋の負担を軽減する姿勢の練習や頸・肩・腕のストレッチ体操の運動療法を行うことで、短期的には筋・筋膜の伸張性向上、筋血流量増加、リンパ液滞留改善、姿勢不良の改善など、また長期的には、自律神経バランスの改善、頭頸部・肩甲帯のアライメントの改善などの効果が期待できます。そして、前回お話しした「肩こりの悪循環」を断ち切ることも期待できます。
具体的な運動療法のお話の前に、次の1~3ができているかチェックしてみてください。
以上は肩こりの原因となる疲労物質を筋内に溜めないコツですが、肩こりの訴えの少ない人は通常、仕事や勉強に集中していても、無意識下でこのような負担を軽減する姿勢をとったり、回復動作を行ったりしていて、筋肉に疲労が蓄積しないようにしています。①~③ができていない人は、以下の負担軽減姿勢の練習やストレッチ体操などの運動療法を行うことで改善が期待できます。
支持面に接した身体の部分が最小限の筋活動で支持面から支えられている状態をパーキングファンクション(Parking Function(以下PF))といいます。頭部の重心と支持面の位置関係がわかってくるにつれて身体の余分な力が抜け、少ない力で頭部を支えられるようになります。今回の体操はPFポジションを見つける練習です。①は天井から見えない紐で頭部を吊るされているようなイメージで背筋をまっすぐに伸ばして座った姿勢で行います。②は腕の位置を変えることによって、腕の重みを支える体幹の筋肉の活動が変化するため、頭部の重心と支持面の空間での安定位置が変化しますので、再度新しいPFポジションを見つけていく練習です。
頭部を支える頸部・肩甲帯の筋肉の負担軽減姿勢を感じる練習です。
腕のポジションによって働く筋肉を感じる練習です。
椅子に座ったままできる首、肩、腕の簡単で効果的なストレッチ体操を練習します。
肩こりがよく見られる僧帽筋、後頭下筋群、肩甲挙筋、半棘筋、板状筋、棘上筋、大・小菱形筋、斜角筋群、胸鎖乳突筋などの筋肉を動かす体操です。
背筋を伸ばし、顎を引き、両手を前で組み、天井へ向かって肘を伸ばして突き上げ、10秒キープします。
(できる人は、手のひらを天井へ向けてください)
背筋を伸ばし、顎を引き、右手を左肩甲骨の上に乗せ、僧帽筋を把持します。右手をその状態で保持したまま、ゆっくり顎を突き出し、限界で3秒キープし、ゆっくり戻します。3回繰り返したら、反対側も同様に行います。
浅く腰掛け、顎を引き、背面で両手を組み、胸を反り、左右の肩甲骨どうしがぶつかるように意識して両肘を伸ばし、頭を右に倒し10秒キープします。左側にも同様に行います。
背筋を伸ばし、顎を引き、右手を右の顎に当て、手で軽く押しながら頭を左にゆっくり回旋し、限界で3秒キープします。反対側も同様に行います。
背筋を伸ばし、顎を引き、右手を頭頂部に乗せ、頭蓋骨を把持します。右手を乗せたまま、ゆっくりと前屈し、頸のうなじ側の筋肉をストレッチし、限界で3秒キープし、ゆっくり戻します。3回繰り返したら反対側も同様に行います。
長時間の同一姿勢により起こる疲労の蓄積が原因の肩こりは、上記の運動療法を継続して行っていくことで改善が期待できます。しかし、効果を全く感じない、または運動療法直後は少し良くなっても翌日にまた元の状態に戻ってしまうことを繰り返す場合、肩こりの原因が、整形外科疾患や内科系の疾患、またはその他の要因(運動不足や眼精疲労、噛み合わせ不良など)と複合している可能性がありますので、注意が必要です。