• コーディネーション能力を強化しよう

Training 22コーディネーション能力を
強化しよう

これまでのシリーズの中で「血友病患者さんにとって、運動をして身体を丈夫にすることは関節内出血のリスクを下げることに繋がる」ことを述べてきました。しかしながら、運動強度を上げることで出血のリスクが上がる不安は常について回ります。関節にかかる運動のエネルギーが、関節の支持能力の限界を超えると関節はダメージを受けます。関節の支持能力は、関節の可動域や柔軟性を向上させ、関節周囲の筋力と持久力を鍛えることでアップしていきますが、運動中の怪我の予防にはさらに、コーディネーション(協調性)能力が重要なポイントになります。コーディネーション能力とは、さまざまな種類の能力が総合的に発揮される能力のことで、教科書的には定位能力、変換能力、連結能力、反応能力、識別能力、リズム能力、バランス能力の7つに分けられています(表1)。コーディネーショントレーニングは、一般的に小児期に最も発達すると言われていますが、成人になってからでも能力アップが可能であることがわかっています。小児から高齢者までのすべての人に適応があります。

コーディネーション能力の種類と日常生活での一例

  • 定位能力

    障害物や動いている物と自分の位置関係を空間的に把握する情報処理能力

    道路を歩いているときに他の歩行者、自転車、縁石、電柱などと自分の位置関係を時間的・空間的に把握するなど。

  • 変換能力

    状況変化に応じて、動きを切り替える予測能力

    道路を歩いていて、正面から来る自転車が急に自分の進路と重なったとき、歩きながら自分の進路を一歩分横方向に移動して衝突を回避するなど。

  • 連結能力

    タイミングよく身体をスムーズに動かす能力

    歩いていて他人とすれ違うタイミングに合わせて、歩きながら身体をひねって相手をかわすなど。

  • 反応能力

    何かの合図に素早く的確な動作で反応する能力

    ジョギングしていて踏切を渡る直前に警報機が鳴ったとき、よろけたりせずに瞬時に止まるなど。

  • 識別能力

    手足や用具を視覚と連携させて調整する能力

    杖や手すりを上手に使って安全に階段昇降をするなど。

  • リズム能力

    リズムを作ったり、真似したり、タイミングをつかむ能力

    一緒に歩いている相手の歩調に合わせて歩くスピードを調整するなど。

  • バランス能力

    身体バランスを維持し、崩れを素早く回復する能力

    歩いているときにうっかりバナナの皮を踏んで滑って姿勢を崩したとき、転ばないように上手く姿勢を立て直すなど。

コーディネーショントレーニング

絶対にこれというコーディネーショントレーニングは無く、個人の機能状態に合わせて行う内容やルールを自由に設定することがOKなので、遊びの要素を取り入れて楽しみながら行うことが多いです。次に当院のリハビリでも取り入れている簡易なトレーニング方法をふたつ紹介したいと思います。

1人で・・・
バランス壁当て

一つ目は椅子に座って両足を床から浮かせてバランスを取りながら、壁の目印に向かってソフトキャンディーボールを投げ、跳ね返ってきたボールを上手にキャッチして、リズム良く投げとキャッチを繰り返す「バランス壁当て」です。一人でボールと椅子があれば行えるので手軽です。定位・変換・連結・反応・識別・リズム・バランス全ての能力の要素を含んでいます。両脚を浮かせたまま行うことで腸腰筋と腹筋のトレーニングにもなります。前回紹介したバランスディスクをお尻の下に敷いて行うと難易度が高くなります。

肘や肩に関節症がある方は、ボールの投げる位置と壁の距離を調節して、関節に無理のない投げ方で行うようにしましょう。

2人で・・・
足キャッチボール

もう一つは、二人で行うトレーニングです。向かい合って座り、お互いに裸足になって、ソフトキャンディーボールを片方の足趾(そくし)でつかんで相手に放り投げます。相手には両手でキャッチしてもらう「足キャッチボール」です。足趾からボールが離れるタイミングが難しいので、慣れるまで時間がかかりますが、慣れると手で投げるのと同じようにコントロールができるようになります。バランスディスクを使用して両脚を浮かせた状態で行うとバランスの要素も加わり、すべてのコーディネーション能力要素が含まれます。当院で膝の手術をした血友病患者さんが、退院する頃に立位で行うことができるようになることもあります。お互いの距離を離していくと難易度が高くなっていきます。

足趾でボールをつかむことができない方や股・膝・足の関節症があってボールを放り投げることが難しい方は、ボールを転がしてもOKです。関節に過度な負担がかからないように力加減を調節して行いましょう。

一般に「運動神経が優れている」と言われる人ほど、コーディネーション能力が高いと言われています。コーディネーション能力を鍛えることで、危険予測・回避能力を高められ、全身の関節の連動がうまく協調するようになり、怪我をしにくくなるので関節内出血のリスクを抑えられます。友達と遊んでいるときも、散歩しているときも、電車のつり革につかまって立っているときも、その他の様々な場面においてもコーディネーション能力を意識して動作を行うことでトレーニングになります。日常の中で工夫して上手に鍛えていきましょう。