血友病患者さんにとって、運動療法で身体を鍛えていくことは、長期的に見れば身体の皮膚、皮下組織、筋肉、血管、靭帯、骨などの身体を支える組織が頑丈になり、外傷や怪我での出血の予防と機能回復・向上のトレーニング効果が得られることになります。また、長期的に自宅での自主トレーニング(ホームエクササイズ)を継続していくことは大変重要なことであることを述べてきました。ホームエクササイズを生活の中に定着させ、習慣化することが鍵となりますが、3日坊主にならないように上手く習慣化することはなかなか難しいことです。今回紹介させていただく「トレーニングの3つの原理・5つの原則」(表1)を理解することは運動意欲を持続することに役立ちますので、ぜひ覚えていただきたいと思います。
ストレッチ体操は、血友病の患者さんにとって非常に重要です。関節内出血および筋肉内出血後のリハビリと再出血の予防的トレーニングとしてホームエクササイズのメニューに組み込んでいくべき運動療法の一つです。安静・不使用による筋力低下の特徴として、速筋(収縮が速く力が強い大きな筋肉で、下肢では大殿筋(だいでんきん)、中殿筋(ちゅうでんきん)、腸腰筋(ちょうようきん)、大腿四頭筋(だいたいしとうきん)、内転筋(ないてんきん)、ハムストリングス、前脛骨筋(ぜんけいこつきん)、下腿三頭筋(かたいさんとうきん)などがあります)が早く弱ることが知られています。これらの筋力が顕著に低下すると、立位バランスや歩行能力が低下し、階段昇降、坂道歩行、しゃがみ込み、立ち上がりなどの動作がやりにくくなります。低下した筋力は関節可動域が確保されていれば運動を行うことで回復します。長期的な関節固定で筋肉が拘縮して可動域が極端に落ちてしまうと、筋力トレーニングをしても十分なパワーが出せなくなります。筋肉の柔軟性の確保と弱った筋肉のコンディションを整えるトレーニングとして通常選択されるのが筋ストレッチです。筋ストレッチは、筋力の低下予防・回復に効果があります。これは筋肉へのストレッチ刺激により、筋肉から筋を肥大させる物質の分泌量が増えることが関係しているのではないかと考えられています。ストレッチ姿勢を調整することで自分の体重を利用して、バーベルや筋トレマシンなどの器具を使わずに、筋力トレーニングの効果が十分に得ることができます。血友病の筋ストレッチ体操は、関節症や出血のリスクを考慮すると、弾むように早く筋肉を伸ばすバリスティックストレッチのような方法よりも、ヨガのようにゆっくり筋肉を伸ばす方法が良いです。次にご紹介するのは当院の患者さんにリハビリテーションで実際に指導している一例です。
A.過負荷の原理 | 現在の能力以上の負荷をかけることで、現在より能力が向上すること。負荷の目安としては、例えば筋力の場合は最大筋力の60%以上を10回以上反復すること、持久力の場合は最大筋力の40%以上の負荷を長時間連続してかけることになります。 |
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B.可逆性の原理 | トレーニングを止めてしまうと、身体が元に戻ってしまうこと。目安は、筋力の場合一日のトレーニングで0.5~1%上昇し、効果は3日間継続し、それ以降何もしないと一日1%ずつ低下していきます。また筋力維持のためには最大筋力の30%~40%程度の負荷をかけることが必要と言われています。 |
C.特異性の原理 | トレーニングは種類によって鍛えられる効能が違うこと。例えば一生懸命ウォーキングをしても、上肢の筋力は上がらないですし、持久力トレーニングをしても筋力や瞬発力は上がらないようなことを言います。 |
1.全面性の原則 | すべての体力要素をバランス良く鍛えることが大切であること。「すべての体力要素」とは、身体的要素では行動体力(筋力、瞬発力、持久力、柔軟性、バランス、敏捷性)と防衛体力(器官・組織の機能、免疫力)があり、また精神的要素では意欲(モチベーション)と意志の強さ(メンタルマネージメント)があります。 |
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2.反復性の原則 | トレーニングは長期間にわたって繰り返し行う必要があること。「トレーニングメニューを日常生活のルーチンワークの中にいかに取り入れていくか」がポイントになります。 |
3.個別性の原則 | 個人のレベルに合わせてトレーニングメニューを決めること。年齢、性別、体格、関節の状態などを考慮してトレーニングメニューを決めていくことです。これにより過剰な負荷による外傷や障害の予防になります。 |
4.意識性の原則 | 鍛える目的や部位を意識することでトレーニング効果が向上すること。トレーニング前にトレーニングメニューの一つ一つで得られる効果をしっかりと頭の中に入れておきます。そして、トレーニング中は身体のどこを使って何を鍛えているのかを意識しながらトレーニングする方が、何も考えないで同じことをするよりも得られる効果が高いことが分かっています。 |
5.漸進性の原則 | 負荷に慣れたら少しずつ回数や重量を増やしていくこと。一定の負荷をかけ続けると、一定の筋力アップが得られますが、負荷に慣れてしまうと筋力は上がらず維持するだけに留まります。負荷のかけ方を変化させ、回数、重量の他、姿勢、スピード、運動方向、重りの種類などを変えていくことで更なる機能向上が狙えます。 |
齋藤 健治「名古屋学院大学論集 医学・健康科学・スポーツ科学篇」2016、5巻、p.1-14
<http://doi.org/10.15012/00000779>
(最終アクセス 2018年3月31日)
呼吸は止めず、鼻から吸って口からゆっくり吐きながら行いましょう。
一つのポーズを20秒間続けてください。